ALL #45

ALL #44 - 日記


季節は夏になっていた。


僕はあまり積極的に他の患者と交流していたつもりはなかったけど、いつの間にかベテラン患者になってしまったこともあって、いろんな人と接することにはなる。


あるときは、たまたま目の前で患者のおじいさんが転んで倒れてしまった。僕は駆け寄って、とりあえずそのおじいさんを持ち上げて車椅子に乗せようとしたのだが、昔の感覚でおじいさんを持とうとしたら全く持ち上がらず、自分の力のなさに愕然としつつ看護師を呼びに行くはめになった。早く見つけたのでおじいさんが無事なのはよかったが、筋トレを禁止された自分の力の衰えを感じてしまった。


あるときは、数週間の入院で来た人にとても腹を立てた。消化器系の癌のため食事がうまくとれないその患者は流動食しか食べられないのだが、その流動食のやわらかさとか味、さらには裏ごしの仕方や、些細な手違いまでとにかく文句を言っていた。その人は気が小さくて細かいことまで気にするので用事のないときでもとにかく話が長く、その人につかまると看護師さんたちは大変な目にあう。重労働で疲れている看護師さんたち。もちろん必要な仕事はしてもらわないといけないけど、看護師さんが文句を言えないのをいいことに、自分のところに来た看護師さんに20分も30分も相手をさせたりして、同じ部屋の患者としてとても気分が悪かった。


そんな風にいろんな患者がいるけど、最近、久々に新しく白血病の患者が同じ部屋に入って来た。白血病の患者は他の病気と違って入院期間が長いので長いおつきあいになる。その人は60代後半くらいの男性だったけど、おじいさんという感じではなく、しっかりしていて着ている服も年の割には派手だった。物静かだけど自分の意見をはっきり持っている感じの好印象の人だった。


だけど僕はその人となかなか話をすることができなかった。


そのうち何かの機会で話をすることになるだろうと思っていたけど、なかなかその機会に恵まれず、同じ部屋なのになんだか妙な感じになっていた。特別仲良くなりたいというわけではないけど、お互いリラックスして同じ部屋で過ごせるくらいにはなりたい。


そう思いつつ過ごしていたある夜、近くで大きな祭があった。当然僕らは入院しているので祭には行けないが、その模様はテレビで中継されていた。テレビとは言え祭の雰囲気は味わうことができ、前からずっと同じ部屋のおじさんは気分よくテレビに合わせて演歌を歌っていた。


僕も気分よく中継をみていたのだが、その祭のクライマックスに花火が上がった瞬間、窓の外にも小さく花火が上がるのが見えた。僕は思わず嬉しくなって部屋の人に教えてあげた。そしてそのときに、新しく入って来た人にも話しかけることができた。


花火は窓側の人しか見えないから、僕はその人を窓側に呼んで、そのとき部屋にいた3人でしばし花火を眺めた。みんなとっても喜んで、花火を見ながらいろんな話ができた。楽しい思い出になる夜だった。


その後は部屋の雰囲気も良くなったような気がした。まあ頑張って白血病治しましょう!って感じで。