ALL #51

ALL #50 - 日記


10月に入り、入院中最後となる骨髄穿刺を受けた。また主治医と話し、2日後に30〜60分程度の退院に際する説明を受け、問題なければ翌日退院ということになった。待ちに待った退院ではあるけれど、自分がこの病棟にいなくなることがなかなか想像できなかった。きっと僕がいなくなっても、次々と患者がやってきて、治ったり死んだりして、どちらにしても医師や看護師は忙しく働くだけなのだろうけれど。


2日後の夜、外泊からいつものように帰った。退院の前日に外泊から帰ってくる人も珍しいかもしれないけど、僕と同部屋の患者たちはさして驚かない。僕はほとんど病院にいない入院患者だとみんなわかっていたから。


そして19時頃、面談室に呼ばれた。廊下側のベッドが嫌で一日中外を見て過ごしたりした面談室。普段はあまり使われていないので解放されている面談室には主治医の男の先生と、もう一人の女の主治医の先生が座っていた。考えてみれば、僕も面談するためにこの場所を使うのは初めてだった。部屋に入り、ドアを閉めると話が始まった。


「半年の治療はとても順調に進みました。当初、移植を前提に治療すると説明しましたが、合併症により2〜3割の方が亡くなります。このタイプの白血病は成人では症例が少なくてなんとも言えないのですが、小児では化学療法のみでも成績が悪くありません。白血病の治療に骨髄移植は有効ですが、天秤にかけると、経過も良かったですし移植ではなく今後も維持療法をしていくべきだと考えています。」


「ありがとうございます。僕も同じ考えです。」


「維持療法は今後2年間。当然入院での治療に比べて用量も低く副作用も少ないですが、白血球数が極端に減るなどすれば入院していただくこともあります。外来には1週か2週に一度きていただくことになります。現時点で白血病細胞がないという可能性もあり、その場合は維持療法に意味はないですが、検査には限界があるので、検出感度より下であるとしか言えません。」


白血病細胞が残っている場合は、維持療法の途中、あるいは2年間の維持療法が終わった後にまた白血病細胞が増えてきて再発するのでしょうか。」


「その辺りはなんとも言えませんが、白血病細胞がある程度少なくなると、白血病細胞が残っていても自己の免疫力で増殖を抑えられるのではないかという風にも考えられています。どんな人でも体内で絶えず突然変異は起こっていて、それを免疫のシステムで防御していますからね。」


「でもそれができなかったから発病したのではないんですか。僕の免疫システムでは対応できないタイプの変異を持つ細胞だとしたら、1つでも残っていればまた増えてしまうのではないのですか。」


「それもそうとは言えません。なんらかの原因でたまたま免疫力が落ちてしまったときに変異を起こした細胞が増殖してしまい、対応できなくなってしまったとも考えられます。白血病細胞をすべて殺してしまえるかというとわからないのですが、でも実際まったく再発しない人もいますからね。なにしろわかっていないことがたくさんあるんです。」