経験値

実況「いや〜今のプレー、素晴らしいですね!」
解説「彼は非常に経験値の高い選手ですから。」


スポーツ中継を見ていると、よくこんな会話が聞こえてきます。最近はオリンピックでスポーツを見る機会もグンと増えたのですが、この種の会話も何度か耳にしました。でもおかしいでしょ。人間には経験値なんて数字は存在しないんだから。


要するに経験が豊富だということが言いたいわけですが、どうしてこんな言い方をするのでしょうか。体力がある選手に体力値が高いからとかそういう言い方はしないのに。変すぎます。注意していると結構たくさんの人が使っていることに気づくこのフレーズ、僕の知る限り、これはある有名なゲームが影響しているように思います。


そのゲームとは何を隠そうドラゴンクエスト


ファミリーコンピュータが発売されてしばらく経った頃に登場したこのゲーム。僕は当時小学生でしたが、初めて友達の家でプレイしたときは衝撃を受けました。なんて面白いんだろうって。夕方、帰るのも忘れて夢中で遊んだ記憶があります。


このゲームには面白い要素はいろいろあると思うのですが、地味に搭載されていた重要なシステム、それが経験値システムです。ファミリーコンピュータ発売直後は単純なゲームが多かったのですが、当時のゲームはものすごいスピードで進化していました。スーパーマリオグラディウスでは、アイテムを獲得することによってパワーアップするシステムが搭載され、興奮したものです。


しかしパワーアップしたのはいいけれど、一度死んでしまうと最初の状態に戻ります。パワーアップしていたからこそ難しい局面を乗り越えていたのに、急に最初の状態に戻されては如何ともしがたいことが多々あります。立て続けにミスをしてゲームオーバーになった思い出は、みなさん持っておられることでしょう。


そしてそれを解決したのが経験値システム。モンスターと戦って得た経験は死んでも失われず(まあ実社会では死んだら経験も何もないですが)、また同じ強さでゲームを再開できるようになりました。戦うごとに得られる「けいけんち」が実はコツコツたまっていて、適当なタイミングでレベルアップします。これによって、成長してより自分が強くなる喜びというものも楽しめます。ヒットポイント(体力値)やマジックポイント(魔法の値)は増減しますが、経験値は減ることはありません。


さらに我々を興奮させたのが「しあわせのくつ」の存在です。なんと歩くごとに経験値が増えるという夢の靴。確か「はぐれメタル」というものすごく固くて逃げ脚の早い難敵を倒したとき、偶然手に入ることがある宝物で、入手は困難を極めました。僕は一度だけ手に入れたことがありましたが、そのためだけにどれだけ長い時間を費やしたことか。


脇道にだいぶそれましたが、今テレビでコメントするような世代の人たちは、きっとドラクエをやっていたと思います。「今、あの選手はイオナズンをとなえましたがマジックポイントが足りなくて何も起きなかったですね〜。」という解説があっても驚いてはいけない時代なんですよ。