ALL #26

ALL #25 - 日記


熱が下がった頃、白血球の値が上昇した。骨髄抑制が終わりつつあるようだ。骨髄抑制が始まると、白血球数は500/μL以下になり、グランを毎日注射しなければならないが、僕の場合はある日突然白血球数が10000/μLを超え、慌ててグランを中止する。値を見てビックリするが、今回もそんな風だった。グランを止めると白血球数はある程度のところまで落ち、しばらくすると正常値くらいになって、そこからまた次の地固め療法2回目を始めることになる。


その前にまた外泊許可がもらえそうなので楽しみにしていると、ある夜、珍しく主治医の男の先生が僕の病室にやってきた。もちろん僕の病状は把握してもらっているけれど、毎日来てくれるのは若手の女の先生だから。


「部屋を移動してもらいたいんです。熱も下がったし、今後の治療は大部屋でいけると思いますから。」


僕は、今まで散々感染を防ぐために手洗いやうがいをこまめにして、個室から出るときはマスクをしてなるべく早く帰ってくるようにしていた。これからも抗がん剤治療は続き、同じように白血球が極端に減れば感染の危険があるのに、どうして他人もいる大部屋にいて大丈夫なのかわからなかった。


「確かに万全を期すなら、すべての人は個室にするのがベストなんですが、個室も限られていますし、より危険な状態の人を優先したいんです。病状が落ち着いたら大体みなさん大部屋に移ってもらっています。同じような病気の人の部屋だし、みなさん気をつけていることもあって、それほど感染の危険は高まらないと思います。もちろん病状によっては再び個室に入ってもらうこともあります。」


僕は大部屋に移ることに同意した。移動は明日とのことだった。


先生が去ると、僕は個室を見回した。なんだかんだで1ヶ月半を過ごしたこの部屋。ただの殺風景な病室だけど、自分なりに物を置く場所を工夫したりして愛着は湧いていた。でも何より、大部屋に行くと個室に比べてプライバシーがなくなるのは必至。とりわけ僕は人見知りもするし、誰とでも仲良くなれるわけでもないので、それがとても嫌だった。いつかは大部屋に移る気はしていたけど、さすがにガックリきた。


でも1ヶ月半前、あの頃は内科の個室が空くまでHCUにいて、たった10日いただけなのに内科の病棟に行くのが嫌だった。それを思い出し、まあ仕方ないなと思いつつ僕は夜を過ごした。そう言えば、HCUの看護師さんたちは元気にしてるかな。窓から見える夜景も見納めかもしれないと思ってしばらく眺めた。そしていつの間にか眠りに落ちた。