ALL #20

ALL #19 - 日記


外泊をするにあたって事前に日程を決める必要があるが、一つ制限がある。僕の鎖骨の下にはカテーテルが挿入されていて、これが詰まると大変だ。普段病院にいるときは常に生理食塩水を流しているが、外泊するとそれができないので、外泊は最大2泊までしか許されなかった。


外泊が可能なのは木曜日からで、月曜からは新たな地固め療法が始まるため、日曜の夜には病院に帰ってこないといけない。医師からは、木〜土にするか、金〜日にするかを選択するよう言われたが、僕は少しでも長く外にいたかったので、木曜に出た後いったん金曜に病院に来て、カテーテルが詰まらない処置をして、すぐに外に出て日曜にまた帰ってくることにしたいと頼んだ。了承された。


木曜の朝。


少しでも早く外に出たかったが、カテーテルの処置が10時くらいになるというので、食べたくないけど仕方なく朝食は病院食を食べた。準備万端で待っていると、先生は早めに来てくれた。処置が済むと、友達がくれたニットの帽子をかぶり、すぐに出発した。感染を防ぐためマスクをしっかりして、人ごみには出ないようにと何度も言われ、送り出された。


久しぶりに外に出ると、もう結構気温が高かった。入院する前はまだまだ寒かったのに。僕は外から病院を眺めた。自分が入院している病院はこんな感じだったのかと初めてわかった。僕は病院を出て、まず最初にバンダナを買いに行った。抗がん剤で髪が抜けた人はよくバンダナを巻いている。


バンダナというものを買ったことがなかったけど、大きな店なら売ってるだろうと駅前の百貨店に行った。15分ほど歩けばいいだけなのに、細くなった足のおかげでとても長い距離に思えた。でもタクシーには乗りたくなかった。せっかく外に出られるんだから歩きたい。


なんとか店に着いたが、バンダナというものはなかなか売ってない。品揃えも悪かったので店員に聞かざるをえなかったのだが、この店の店員がなぜかどの人もみんな親切な人ばかりで、百貨店内のいろんな店をあたってくれた。それは嬉しいのだが、僕はここまで歩いてくることでとても疲れていたから、階段を昇ったり降りたりするのは非常に苦痛だった。正直、ないのならないとだけ言ってくれた方がよかった。僕はギリギリの体力で店内をたらい回しに歩いた後、結局気に入ったバンダナがなくて大きめのハンカチを買った。


気がつくともうお昼だったので、電車に乗り、乗り継ぎの駅の近くの寿司屋に直行した。生ものは避けた方がいいのはわかっていたけど、長い間生の魚を食べていなかったので、我慢が出来なかった。外に出られるくらい白血球数も増えてるんだから大丈夫だと勝手に判断して自己責任で寿司を次々と食べた。それは病院食で出てきたものと全くの別物で、僕は久しぶりに食べることの喜びに浸りきった。約一ヶ月の間、人間に不可欠な食べることの喜びを感じていなかったことを思い知った。隣の夫婦が「頼み方がうまいね」と言っていたけど、たぶん僕がどんな思いで寿司を注文していたかはわからなかっただろう。


その後帽子屋でキャップを買い、コーヒーが飲みたくなったので喫茶店に入った。いつもは食べない甘いものが食べたくなり、チョコレートケーキを食べたが、最高においしく感じた。久しぶりのコーヒーもたまらない。自分が何のために生きているかがわかる。街を歩くだけで楽しい。


満足した僕は、そこからバスに乗って久しぶりの自宅へ向かった。