処方

今日は受診の日。


診察が終わり、会計を済ませると、院外処方なので処方箋を持って近くの薬局に行きました。座って待っていると、一人の女性薬剤師が僕のところにやってきました。


「申し訳ないのですが薬を切らしておりまして、2週間分の14包お渡ししなければならないところ、ただいま10包しか在庫がありません。」


今までにこんなことは初めてでしたが、僕はすぐにあることを思い出しました。以前に飲んでいた残りがまだ家に6包あって、診察のときにそれを言うのを忘れていたのです。要するに、僕が次の受診までに必要な薬は8包なのです。


「ですので、至急メーカーから取り寄せて佐川急便でご自宅まで送らせていただきます。主治医の方にはFAXで確認をとっておきます。」
「あ、じゃあその10包で結構です。まだ家に残りがありますから。わざわざ宅急便で送る必要はないですよ。」


僕はこれですべて解決、さっさと帰ろうと思いました。ところがその薬剤師は難色を示しました。それは困る…といった表情です。どうやら処方箋にあった薬剤は何がなんでも処方するっぽいのです。


僕は今日14包処方してもらったとしても、余った分はまたその後使えばいいのであまり損も得もしない感じなのですが、余計なのは佐川急便。わざわざ薬を4包だけ届けるのはすごく無駄です。最近は自分が損をしなくても、無駄なことをするのが嫌いな僕なのです。


「じゃあ4包だけ後で宅配することを主治医に伝える代わりに、14包から10包へ処方内容を変えるように主治医に伝えて下さいよ。」


しかし薬剤師さんは困っていました。きっと勝手に処方内容を変えることはできないのでしょう。もちろん10包より14包売った方が儲けになりますが、そんなに高くない薬なので、4包だけ郵送するのは逆にコストが高くなる気がします。じゃあ誰が得をしているのか。もちろん佐川急便です。


しかしこんなことをしていていいのでしょうか。世の中には小回りが効かないことが多すぎるような気がします。企業の大型化と品質の均一化のためにマニュアル化された作業工程。もし臨機応変に対応できたら、例えば日本で一日に走る佐川急便のトラックを1台くらい減らせるんじゃないでしょうか。そしたら二酸化炭素排出もちょっぴり防げるし、万が一の交通事故もなくなるかもしれません。


僕は2つの思いの中で葛藤しました。グローバルな観点で物事を考え、断固として佐川急便による宅配を拒否すべきか、それとも目の前で困った顔をしている薬剤師さんがこれ以上面倒な仕事をしないで済むように素直に佐川急便による宅配に応じるべきなのか。それともクロネコヤマトじゃないとイヤだと駄々をこねてみるべきか。


よく電話オペレーターが「申し訳ありません」と平謝りしてユーザーに「かわいそうだからまあいいか」という気持ちにさせて、裏では経営者があぐらをかいている場合なんかがあるので、それを思い出して強い態度に出そうにもなりましたが、薬剤師さんの態度が気持ちの良いものだったので、佐川急便による宅配に応じることにしました。紙に住所を書くと、薬剤師さんはようやくホッとした表情を見せました。


「明日には発送できると思います。ご希望の時間帯はございますか?」
「何時でも結構ですよ。」
「承知いたしました。」
「だって届かなくっても困らないですしね。」
「…。」