つくし

春になったせいもあって、最近、近場には自転車で行くことが多くなりました。そうしていると、車を持っていた頃と違ういろんな発見があります。車では自転車より早く目的地に着く分、途中の道に何があったのかなんてよく覚えてないですからね。


このところは通院にももっぱら自転車を使っていて、公共の交通機関を使うのに比べて半分くらいの時間で到着できます。乗り継ぎもないし、駅で待つこともないし、駅から歩くこともないので早いんです。病院への最短ルートは堤防沿いを行くルート。信号も少なくてスイスイ行けます。でもそうやって通院していると、気になる光景が目に入ってきます。


あの人たちは堤防で何を探しているんだろう?


自転車で堤防沿いを走っていると、たいてい何人かの人が下を向いて熱心に何かを探しています。女の人がほとんどです。でも良い子はまっすぐ家に帰らないといけないと思い、気にせず通り過ぎていました。


でも先日、何を探しているかを知るくらいはいいだろうと思い、自転車を降りて堤防に生えている植物を観察し始めました。「何してるんですか?」と一言言えばいいのですが、僕知らない人にはなかなか話しかけられません。一応僕が子供の頃住んでいた家の近くにも堤防があり、春に採るものと言えばつくしと決まっていました。でも他にもお宝があるのかもしれません。


しばらく探すと、やはりつくしが生えていました。なんとなく引っこ抜いて手に取ると、もっと見つけたくなりました。つくし採りの魔術にはまってしまったようです。でも思ったより収穫は多くありません。みんなが探しているのは別のものなのかもしれない。そう思い初めていたとき、一人のおばさんが話しかけてきました。


「つくし探したはんの?」


僕は「つくしを探している」と断言できるような感じでそこにいたわけではありませんでしたが、事情を説明してもしょうがないので「そうです。」と答えました。するとおばさんは手に満載したつくしを僕に差し出しました。


「これあげるわ。」
「え?いいんですか?」
「おばちゃん、つくし採るの好きやから、採っては人にあげてんねん。今日は昨日ほど多くなくてごめんやけどな。」


もしかしたら神様っているのかもしれない。


おばさんの話によると、やっぱり堤防でみんなが探しているのはつくしのようでした。他にも、おばさんがつくしを採り過ぎて、欲しい人にあげてもらおうと近所の八百屋にあげたら、いつの間にか売り物になっていた話なんかをしばらくした後、おばさんは去っていきました。おばさんは去っていくときも下を見ながらつくしを探していました。僕はおばさんに手を振って自転車で家に戻りました。



さて。僕はつくしを食べたことはあってもどう食べたらおいしいのか知りません。なので家に帰るとインターネットでつくしの料理の仕方を調べました。とりあえず下ごしらえとして、「袴」と呼ばれる節のところにあるものを取らないといけないようです。よく洗ったあと、丹念にその作業を行いました。指が黒くなりました。



その後しばらく水につけておかないといけないみたいなので、水につけ、たまに水をかえるなどして一晩おきました。そして醤油とみりんで炒めました。つくしの味が消えないよう、ごま油やオイスターソースなどは使わず、つくし単独の料理にしました。



味はまあまあ。売ってても買わないけど、ただなら得した気分って感じです。食感が良くて、茎の部分がおいしかったように思います。僕はミズブキの佃煮とか好きで、食感は似ていたような。上の胞子が入っているぼんぼりのところはなくてもいいかなと個人的には思いました。料理の仕方によってはもっとおいしくなるのかもしれませんけどね。


ということで、ちょっと得した一日でした。