早い者勝ち

先日バスに乗りました。


後ろの方に空いている席が見えたので歩いていくと、二人掛けのところにおじさんが一人座っていました。僕はその横に座ろうとしたのですが、そのおじさんは足をバッと開いていて、明らかに僕が座ろうとしているのに足を閉じようとはしません。


よくこうしたシチュエーションで、座りやすいように足を閉じたり、横に詰めたりしてくれたりした場合には、「ありがとうございます」なんて一礼して座ったりすることもあるのですが、腹が立ったので無言で無理矢理体を押し込んでそこに座りました。そのおじさんは僕を睨んでました。


どうして僕が睨まれなければならないのか。


それを説明するために、あなたにはタイムマシーンに乗ってもらいましょう。更にあなたには別の生物に変身してもらいます。



はい。これがあなたです。


ここは中生代ジュラ紀、約2億年前の地球。携帯電話もワーキングプアも特定道路財源もありません。そう、恐竜が大地を闊歩し、昆虫が空を自由に舞う時代。あなたはその主役なわけです。


あなたは好きな物も食べ放題。青春を謳歌し、美しい山々を我が物顔で飛び回ります。多くの仲間たちと出会い、そして別れます。ときには苦しみ、ときには喜び、充実した時間が長く続きます。


そして悠久の時間が流れ、地球の様子も少しずつ変化していきます。


恐竜たちの時代は終わり、やがて哺乳類が現れました。ライオン、シカ、ゾウ、ウサギ…。寒さに強く、また頭のいい哺乳類たちはその勢力を伸ばし、繁栄を極めました。あなたたち昆虫にとっては住みにくい世の中になってきました。後輩の癖に先輩に敬意も払わず大きな顔をする哺乳類たち…。そしてそんな中、その集大成と言える生物が登場しました。ヒトです。


ヒトはこれまでの生物と異なり、自分たちで必要なものを作るようになりました。寒いときは服を身にまとい、川を渡りたいときは船に乗りました。お腹がすくと自分たちが作った作物を収穫し、暖かい家の中で食べました。


ヒトはまた、言葉というものを発達させました。社会的動物と言われるヒトはコミュニケーションを重要視し、一人一人名前を持つようになりました。更にヒトは、地球上のたくさんのものに名前をつけ始めました。そんなとき、あなたはヒトにその存在を見つけられてしまいました。ヒトはあなたの首根っこをつかんで持ち上げ、まじまじとあなたを観察した挙句、こう言いました。


「この虫、ゾウに似てるからゾウムシって呼ぶことにしようぜ。」


何いぃぃぃ〜〜〜!!!!


この俺様がゾウムシだとおぉぉ!!ゾウってもしかしてあの最近出てきた哺乳類の中でもすごくデカイあいつのことか?確かに鼻が妙に長くて、初めて見たときは俺に少し似てるかなと思ったこともあったけど…逆だろ!!あいつが出てくる前から俺はずっとこのスタイルを貫いてきたし、真似してきたのはあいつの方だろ!!納得できねぇーーーー!!!!


ここら辺りで、あなたには現代の人間に戻ってもらいましょう。


お分かりでしょうか。要するに、生き物と言うのは本能的に早い者勝ちの心理を持っていて、後から来た者に対して自分の方が偉いと思ってしまうのです。人間の世の中でも、歳が自分より上か下かで態度が一変してしまう人は多いですし、転入生とかがでしゃばるとすぐにいじめられてしまいます。もちろん順番に並んだりする必要があるときなど、とても有用なシーンも数多くあります。


でもね、バスは公共の交通機関なんだから、二人掛けの椅子で後から来た人が狭っ苦しい思いをするのはおかしいですよ。