ALL #16
新しい生活には少しずつ慣れてきたが、骨髄抑制は続いていた。
白血球数、赤血球数、血小板数、すべてがとても低い値だった。白血球数は普通の人の1/20もなくて、毎日毎日夕方にグランを注射してもらっていた。面会謝絶状態で、とにかくうがいと手洗いを欠かさず行い、マスクは手放せなかった。赤血球数やヘモグロビンの値が低くなると、歩くときにフラフラするのがよくわかるようになるし、そのたびに輸血をした。血が止まらなくなったりすることはなかったけど、採血などの注射の跡が青じんでなかなか治らなくなることがあり、これも血小板の輸血で対処した。
でもこれは仕方ないこと。これが白血病の治療だから。白血病の症状も消えているし、経過としては良好だ。その証拠に最初に診てくれた医師が僕の個室に来る回数が少しずつ少なくなっていった。でもその代わりに、もう一人の主治医である若い女の先生が毎日足を運んでくれた。
そして治療は続く。
以前医師から、良い薬だけど大人では副作用が出やすいので投与できるかわからないと言われていたロイナーゼを投与する日がやってきた。あまり副作用が出ないといいのだけど。
朝、まず最初にアレルギー予防のための薬を点滴で2種類入れる。それと同時に女の先生がやってきて、慣れた手つきで腕の表面にロイナーゼの入った注射針を何度か刺した。アレルギーの反応を見るためだ。赤いペンでマークをつけると、先生はいったん部屋を去り、15分ほどすると戻ってきた。さっきマークした部分を見て、ロイナーゼを投与することになった。アレルギーの強い人は、これだけで赤く腫れ上がってしまうらしいが、僕の腕には特に変化がなかった。
この後も何度かロイナーゼを投与したが、特に目立った副作用は現れず、順調に投与することができた。ロイナーゼがどれくらい効いているのか実感はないけれど、予定通り投与できたことは嬉しいことだった。
便秘は少しずつ解消し、普通の便が出ることが多くなってきた。でも便秘を起こしやすい薬は定期的に投与しているので、予防的に便秘の薬を飲むようにはしていた。
こんな風にいろんなことに慣れてきて、生活のリズムもつかめてきたときに、ある体の異変に気付いた。枕に髪の毛がたくさんつくようになったことだ。