ALL #13

ALL #12 - 日記


抗がん剤投与を始めて約1週間、血液検査の数値に変化が現れはじめた。血球系の数値が著しく落ちているのだ。


化学療法では、白血病細胞を減らすために抗がん剤を投与するわけだが、それは細胞分裂が活発な細胞を殺してしまう性質が抗がん剤にあるから。でも細胞分裂が活発な細胞というのは白血病細胞だけではないので、目的としないところにも影響は出る。それが副作用であり、骨髄の活発な細胞分裂も抑えられて、結果血球系の数値が下がってしまう。いわゆる骨髄抑制というやつだ。


ただこれは予想されていたこと。どのような副作用が出るかはある程度事前に聞いていたし、時期的にもこの副作用は予想どおりだった。


ここで特に注意しなければならなかったのは白血球数。この時点で8×100/μLまで落ちていて、感染の可能性が高まっていた。普通の人はこの5倍以上の濃度である。ということで、白血球数を増やす薬を注射することになった。白血球が上がってくるまで、グランという薬を毎日夕方皮下注射。


もちろん白血球を増やすと言ってもすぐに効果が出るわけじゃないし、骨髄抑制が強いときはなんともならないので、とにかく上がるのを待つ。骨髄抑制を引き起こす薬剤の投与はスケジュールの始めの方で終わってるし、待てば上がってくるはず。


ちなみにこのグランという薬は、嫌がる人が多いらしい。看護師さんも「痛いけど我慢してね」と言いながら注射したりする。確かに多少は痛いけど、でも注射というのは痛いものだし言われるほど苦痛でもなかった。


また、それに追い討ちをかけるように便秘はひどくなった。


大便のときに限って許されている部屋の外のトイレに行って、吐き気と戦いながら長時間頑張ってもなかなか便は出なかった。点滴や、滴下調整する機械などがたくさんついた点滴棒を、ゆっくりと押しながら達成感なく部屋に戻ることも多かった。


そんな風に過ごしつつも少しずつHCUの雰囲気は好きになっていた。傍から見ればただの無機的な病室で、そんなところで24時間過ごすなんて耐えられないけど、僕はもうそこにいるしかなかったし、観念してみるとなんとなくは落ち着いてくる。看護師さんもよくしてくれるし、人間だから、与えられた環境にそこそこ適応していた。でもHCUはあくまで臨時の場所。僕は血液内科の病棟の個室が空くのを待っているだけだ。


そして転院してから約1週間後、病棟に空きが出たことが知らされた。