ALL #12

ALL #11 - 日記


寛解導入療法開始の朝。


食事や清掃の時間が終わると、いつものように看護師さんが治療用の点滴を持ってきた。ただし今までとは違う、鮮やかな赤い色をした液体が入っていた。


今まで数日、エンドキサンとプレドニンの投与は続けていたが、この日から治療プロトコルにのっとり、新たにダウノマイシンという薬が追加される。赤いのはこの薬のせいとのこと。体には悪そうだが、ある意味きれいな色のこの液体は、特に違和感なく体に入っていった。またオンコビンという薬を点滴の管から注射で入れた。これは透明の液体だった。


抗がん剤を入れる前にはたいてい制吐剤を入れるが、この日も同様だった。看護師さんや先生が、しきりに「気分は悪くないですか?」「何か変わったことはないですか?」と僕の体の状態をチェックしていた。相変わらず、尿が出やすい薬を使ったり、輸液もどんどん入れているので尿は頻繁に出たが、透明の尿器にはいつもと違って赤い尿がたまっていた。


数時間で治療の点滴が終わり、本を読んだり、昼食をとったり、看護師さんに手伝ってもらって体を拭いたりした。


そして夕食を終え、消灯までの時間を過ごしていたときのことだった。


それまで普通にすごしていたつもりだったけど、気がつくと嫌な汗が出ていた。明らかに何かおかしいと思っていると、突然強烈な吐き気が僕を襲った。それまでそんな予兆はなかったが、その吐き気はほとんど何をする時間も僕に与えてくれなかった。ナースコールのボタンを押すだけで精一杯。かろうじてベッドの横にあったゴミ箱の方に顔を向けることはできたが、物凄い勢いでさっき食べたばかりのものを吐き出した。すぐに看護師さんが来てくれた。


しばらくすると落ち着きを取り戻し、看護師さんたちは掃除をしたり、ゴミ箱を取り替えたりしてくれた。僕は薬に強くて副作用が起きないんじゃないかと思ったりもしていたけど、そんなことはなかった。あの赤い液体が犯人だろうとのことだったが、よくある副作用だし、そんなに心配することはないと言われた。ただあの赤い液体は明日もあさっても投与の予定なので、この時から吐き出し用の容器を手元に置いておかざるをえなくなった。


間もなく消灯となり、夜中に吐くことはなかったが、この日からしばらく、常に吐き気がある状態となり、とてもつらい時間を過ごした。というか吐き気がつらくて、何もしていないのに一日が過ぎた。食事も今までのように食べることはできず、缶詰のフルーツやジュースを少しだけ食べて残すことも多かった。幸いその後嘔吐することはなかったが、制吐剤は、効いているのかいないのかよくわからなかった。


結局ダウノマイシンは3日連続投与された。薬というのはリスク&ベネフィット。一度吐いたくらいで止めてしまったら、せっかくの良い効果を得ることができない。ただ何も知らない1日目はあまりなんとも思わなかったけど、2日目と3日目は、あの赤い液体が体に入っていくのがとても嫌な感じがした。