ハガキを買おうと思ってコンビニに行きました。


「ハガキ下さい。」
「え?」
「ハガキ下さい。」
「え?」
「ハ・ガ・キ。」


僕はこういうことがよくあります。飲食店で注文するときは一回で済むことの方が珍しいし、カラオケに行ったらマイクを使ってドリンクの注文を電話の近くの人に頼んだりすることもあります。


落ち着いてるとか言われることもある僕ですが、こういうことを続けてると、声を出すのが面倒なんじゃないかとか横着してるんじゃないかと思われることもあるかもしれません。でも、そういうわけじゃないんです。


僕が中学生の頃、とても気さくな音楽の先生がいました。半分なめられてるところもあって、音楽の授業中はとてもうるさく、先生はいつも「コラー!」と声を上げていました。でもその先生は生徒と同じ目線で話してくれるし、とても面白い親しみやすい先生だったので、実はみんなその先生のことが好きでした。僕も音楽の時間が来るのが割と楽しみでした。歌を歌うのとかは嫌いだけど、なんとなく楽しい雰囲気なんです。


そんなある日、確か2月か3月、いつものように、「だるいな〜」なんて言いながら音楽室に向かい、いつものように音楽の時間が始まりました。でもこの日の授業の冒頭、先生は僕らが想像もしなかったことを発表しました。


「実は先生、今度の春から異動になるので、今日がみんなとの最後の授業になります。」


え…静まり返る音楽室。寝耳に水。みんなまったく聞かされていませんでした。突然の通達に動揺を隠せない僕たちでしたが、先生はすぐに授業を始めました。


僕らはどうしていいかわかりませんでしたが、とにかく授業中の態度はいつもとまったく異なり、私語をすることなく授業を受けていました。この日の授業は歌の練習。確か卒業生を送る歌か何かだったと思います。最初はパートパートに分けて練習をします。


こういうとき、いつもなら、男子、特にちょっと不良っぽい男子なんかは絶対に学校の授業で歌なんか歌わないのに、この日は違いました。みんな来年も先生の授業を受けられると思っていたのに、いきなり今日が最後の授業なんですから。一人一人が真剣に練習をしました。


そして最後に全員で合唱することになりました。歌の始まりから、今までこんなに大きな声で歌えたんだとビックリするくらい大きな声でみんな歌いました。先生、本当にありがとう。僕たちの心は一つでした。先生のピアノの伴奏に合わせて一生懸命、あらん限りの声を出して歌いました。


先生も、伴奏をしながら一人一人の顔を見つめて焼き付けているように見えました。右の方から、女子の顔を見て、それから左の男子の顔を順番に見ていました。そして僕と目が合ったとき、先生が急に声を出しました。


「コラー!くちパクパクしない!」


え。


僕は今までにないくらいの大きな声をみんなと一緒に出していたのに…僕は最後の授業で歌を歌う振りをする生徒として先生と別れることになってしまったのです。


ということで、ズボラをしてるのでもなんでもないんです。どうしても僕の声は聞こえにくいんです。


え、そんなことないよ!と思っている人もいるかもしれませんが、もしかしたら僕の話したことのうち、半分くらいしか聞こえてないのかもしれませんよ。話しかけたのに気づいてもらえないことも多いですから…。