ペガサン

最近、ねじれ国会で法案がなかなか通らないって言いますけど、実は法律って僕らの知らないうちにものすごいスピードで作られてたんですね。でも法律っていろんな立場の国民全員に適用されるものです。そんなに簡単に作って、審議して、成立…なんて風にして問題はないのでしょうか。


小学校の頃、こんなことがありました。


クラスのある子のことを、「イガグリ」と呼ぶ子たちがいました。その子はスポーツ刈りだったのですが、髪の毛が直毛で固かったのか放射状に伸びていたので面白がって呼んだのでしょう。いじめまではいかないのですが、その子がそれに対して反応するものだから余計に「イガグリ」「イガグリ」とからかう人も増えたりしました。


本人は耐えかねたようで、学級会でこのことが議題になりました。先生も交えてクラス全員で考えているうちに、「イガグリ」だけでなく他にも本人が嫌な呼び名で呼ばれてる人もいるんじゃないかという意見も出るなど、議論は白熱しました。


そして出た結論は「呼び名を変えて欲しい場合は、本人が学級会で『この呼び名で呼んで下さい』と宣言し、みんなそれに従う」というものでした。小学生が考えたにしてはまともで、しかも一般性のある結論でした。先生もこれに満足し、「イガグリ」という声も聞かれなくなりました。


しかしその後、思わぬ事態が起こりました。


「イガグリ」と呼ばれていた子以外にも呼び名を変えたいという子が数人いて、先の決定に従い呼び名が変わっていたのですが、ある友達も呼び名の変更を希望しました。でも彼は普段、名前をもじった呼び名で呼ばれていました。なぜその呼び名が嫌なんだろう?とみんなが思いました。でもそれは新しい呼び名を聞いた途端、すぐわかりました。


「これからは『ペガサン』と呼んで下さい」


当時、聖闘士星矢(セイントせいや)というギリシャ神話をモチーフにしたアニメが大流行りでした。聖闘士と呼ばれる戦士が聖衣(クロス)と言われる鎧を身にまとい、戦いを繰り広げる物語。聖闘士にはそれぞれ星座が割り当てられていて、主人公の星矢はペガサス座の聖闘士。得意技はペガサス流星拳で、僕らはよくいろんな聖闘士になり切って遊んだり、家で密かにペガサス流星拳の練習をしたりしました。彼は今の呼び名が嫌なのではなく、かっこいい名前で呼んで欲しかったのです。


しかし、かっこ良過ぎるその名前は僕らを悩ませました。今までの呼び名は使えなくなり、以来僕らは気軽に彼を呼ぶことができなくなりました。クラスの中ならまだしも、他のクラスの人がいるところでは恥ずかしくて無理でした。


決まりを作るのが難しいと初めて感じた瞬間でした。