ディクタット

ちょっと古いニュースですが、ディクタットDiktatが輸入され、来年から本邦で併用されることになりました。


なんのことかわからない人がほとんどでしょう。もう少し平易に。


ディクタットという名前のサラブレッドが輸入され、来年の春(馬の繁殖シーズン)から日本で種馬になることになりました。


日本は金にあかせていろんな物を買ってきますが、馬も同じ。毎年、競走用・繁殖用として多くの馬が輸入されます。ではなぜこのディクタットを取り上げるのか。


ちゃんと調べてないですが、何十万頭というサラブレッドが世界中にいます。サラブレッドとは英語でThoroughbred。「徹底的に(Thorough)交配(breed)された」というのが直訳で、速く走るために人間が積極的に介入してできた馬。品種改良に近いです。


そのため血統の管理が可能で、現在サラブレッドと呼ばれる馬にはちゃんと血統書があります。父親が誰でその母は誰でその父は…なんて風に。18世紀から管理されていると言いますから、200年以上。馬は3歳くらいから繁殖できるようになり、20代後半まで繁殖できる個体もいます。寿命は30年生きれば長い方。春に交尾をして妊娠期間が一年弱、翌年の春に子供を産むのですが、一体何代くらい管理されていることになるのでしょうね。僕なんて自分のおじいさんおばあさんの名前を全員言えないのに…。


で特徴的なのは、1頭の雌馬からは1年に1頭の仔馬が生まれるのに対し、人間と違って1頭の牡馬の仔が1年に200頭以上生まれるというのが可能だという点(ちなみに牛などは人工授精をするのでもっとすごい)。走るのが速い馬がどんどん交配され、遅い馬はどんどん淘汰されます。


すると、ある優秀な馬の子孫が多くなるのは想像に難くないですよね。競馬場で走ってる馬を適当に2頭選んでその父親を調べると同じ、なんてことはよくあります。父親が同じでなくても、「父親の父親」と「父親」が同じとか、「父親の父親」と「父親の父親」が同じなんてパターンもザラで、更に3代、4代…と遡ると大抵の馬は同じ牡馬の子孫だということがわかります。父系が重視されるのは、1年に生まれる仔馬の数に関する前述の説明でわかりますよね。


では、この200年の歴史を遡ればどうなるのでしょうか。なんと世界中に散らばるサラブレッドがたった3頭の牡馬の子孫に分類できてしまうのです。ちなみにサラブレッドは人間のように黒人・白人などというほどの亜種的な差異はなくて、世界中のサラブレッドで一つの種と考えることができます。これは当時世界をリードしていたイギリスただ1国から競馬が広まったことで説明できます。


もちろん、もしもう少し血統管理の歴史が長ければ、すべてが1頭の牡馬の子孫たちということになるかもしれないですし、逆にもう少し血統管理の歴史が短ければ、もっとたくさんの牡馬からの子孫たちということになるかもしれません。


ここで興味深いのは、時間は常に進んでいるので前者は現在進行形だということです。どういうことかというと、正確な数字はわかりませんが、現在3つの系統のうちの1つの系統に属する馬が全体の95%前後を占めるとも言われています。要するに後の2つが滅びれば、「すべてのサラブレッドは父系を辿れば1頭の牡馬に辿り着く」という事態になるということです。


そして、その3つの系統のうち最もマイナーな系統に属するのがディクタットであり、珍しいもの好きな僕は心穏やかではないわけです。


一見喜ばしいディクタットの輸入ですが、どちらかというとこれは一大始祖への道を加速させているというのが正しいような気がします。競走馬の生産の世界の中心はヨーロッパと北アメリカ。日本では独自の父系はなかなか育たず、何代にも渡って父系を伸ばす馬は皆無です。曰く種馬の墓場。袋小路状態なのです。


この系統の久々の日本への輸入で嬉しいような気もするのですが、やっぱり輸入しない方がいいような気がします。


果たしてディクタットの子供たちはどんな活躍を見せてくれるのか。既にヨーロッパでは子供がデビューしていて大物は出ていないので、日本で父系を伸ばすのはなかなか難しいでしょうが…順調なら子供のデビューは2011年夏以降です。


ちなみにこのディクタットの父親はウォーニングWarning。このアカウントの名前に使わせてもらってます。