ALL #06

研修医の先生は、その一生懸命調べているという原因について、可能性という観点で話をしてくれた。研修医はいくつかの可能性を話したが、僕は動じることはなかった。自分にとって最悪のことを自分で既に想像できていると思っていたから。だけど、研修医の話の中で、一つだけ僕の想像の中にまったくなかった言葉が出てきた。


「血球系が総じて下がっているのが気になるところで…その、まあそんなことはないと思いたいんですが、可能性としては白血病ということも…」


!その時初めて心がウッとなった。まったく考えていなかった。汗が出た。僕は表面的には平然と、その後の話を聞いた。



前日の教訓から夕食前にロキソニンを飲んだが、とてもよく効いた。夜もロキソニンを飲んで寝た。こんな状況でも僕は睡眠だけはしっかりとれてしまう。


翌朝は採血で起床。背中の痛みは小さくなっているように思えた。


朝食後、主治医が研修医を連れてやってきた。血液検査の結果が良くなかったからだ。特に血小板の数が2万/μLほど(通常15〜40くらい)しかなく、白血球数や赤血球数も減少しているとのこと。昨日、僕以外でこの病室に一人だけ入院していた人が退院し、一人だけになったので、部屋を個室として使い、外には出ないようにと指示された。また、この病院には血液疾患を専門とする医師はいないが、たまたま今日週に一度非常勤の先生が来る日だとのことで、受診することになった。更に届き次第血小板輸血を行うことになった。


話を終えると医師たちは去り、代わりに看護師さんたちがやってきて、僕は8人部屋の一番奥のベッドに移動した。窓からは道路を挟んで向かいのマンションだけが見えた。空も見えない。病院の景色としては最悪だった。その最悪の景色に飽きる間もなく、今度は主治医が一人でやってきた。


「転院」


主治医は部屋に入るなりそう告げた。「ええ先生いはるから」ということで転院が決まった。それまで主治医が誰かもよくわからないくらいだったけど、このとき初めて2人でしばらく話をすることができた。僕は自分がどんな仕事をしているか話したりした。とても熱心な先生で、お別れするのが少し残念な気もした。でももうこの病院では手に負えないということだ。今まで、町医者から総合病院へ紹介される経験すらない僕だったので、なんかいつもと違うことが起こってるなという感じがした。


結局、非常勤の血液の先生の診察を受けるのもキャンセルで、血小板輸血をするとしても転院先でということになった。「ええ先生」の指示に従うべきなので当然だ。そして昼食が運ばれてきた。


食後、会社に電話をした。入院した日は「1週間ちょっと」の入院と言われたが、今日は「もっともっと…」とのことだったので。


程なく車の用意が整い、病院の人たちにお礼を言って救急車で転院先に向かった。