ネギ

自分の欲しいと思ったものが何の努力もなしに目の前に現れる。こんな奇跡がこの世知辛い世の中においてあり得るのでしょうか。


先日、納豆を買いました。


僕は豆ってそんなに好きではないと思ってるのですが、加工したものは結構好きです。特に納豆と豆乳が好きですが、気がついてみれば豆腐や味噌、醤油なんかにも使われているので、知らず知らずのうちに食べて結構好きなのかもしれません。


しかし家で納豆を食べようと思ったとき、ネギがないことに気づきました。人によって納豆の食べ方は様々だとは思いますが、僕は細めのネギを入れるのが一番好きです。


ネギがあればな〜と思いながら、何も入れずに納豆を食べました。それでもおいしいんですけど。でもネギがないのは買い忘れたからではありません。ネギって結構高いんですよね。消費期限中に一人でそんなに食べられないよという量で売ってるのも困り物。というわけで未必の故意です…。3パックのやつを買ったので残り2パックになりました。


次の日、雲ひとつない青空が広がる秋晴れの気持ちよい天気になりました。これは布団を干さなければ。


僕のマンションには共同で使えるオープンスペースがあって、そこで布団が干せます。他の人はあんまり使ってないみたいですが、僕は結構布団を干しに行きます。


えっちらおっちら布団を運び、布団を物干し竿にかけ、固定してパンパンはたき、とりあえず部屋に戻ろうとしたとき、そこに奇跡が起きていました。


ネギが生えていたのです。


そのスペースは物干し台以外にはこれと言って物はなくて、昔誰かが使ってたと思われる植木鉢の残骸のようなものが隅の方にあるだけ。気にしたこともなかったのですが、その残骸のような植木鉢には枯れた草木が横たわっています。ですがよく見ると一つだけ青い色をして生きている植物がありました。青々と元気に育ったネギでした。僕は俄かには信じられず、しばらく観察してみましたが、やっぱりネギでした。


食いたい。


僕は部屋に戻り、考えました。


昔誰かが育ててたやつが自生したのだろうか、育ててるようには見えないし…。でもあまりに話がおいしすぎないか。おいしい話には裏があるっていうし、あまりに不自然すぎる。しかし一体どんな裏があるというのだ…。


僕が考えていると、たまたまつけてたテレビのニュースで、アメリカで自動車泥棒が捕まった映像が流れてました。単に泥棒を捕まえたのではなく、車の窃盗が多発した地域でおとりの車を警察が使ったというもの。それにまんまと引っかかって車に乗り込んだ犯人は、運転して逃走するその犯行の一部始終を撮られたばかりか、遠く日本の視聴者にもその姿をさらしてました。うまく盗めたと思って小躍りする犯人。僕はなんとなく、ネギを収穫して小躍りする自分を想像しました。


怖すぎるじゃないか。


夕方、僕は布団を取り入れた後、スーパーにネギを買いに行きました。